発火すると危険なマグネシウムなど、取り扱いの難しい非鉄金属の加工に特化したファインテックは、コロナショックをものともせずに増収増益を続けている。エネルギー市場や航空機市場などの有望市場への参入を相次いで実現してきた鈴木聡社長の経営手腕に迫る。
ファインテックは、いわゆる難削材といわれる非鉄金属の加工を得意としている企業だ。マグネシウムのほか、強酸や強アルカリ、特殊ガス等に強い耐腐性を持つ「ハステロイ」、航空機エンジンの燃焼ケースなど2000度を超えるような過酷な環境下でも精度と強度を維持できる耐熱合金の「インコネル」、軽量高強度で高機能素材の「チタン」などの加工で高い評価を獲得している。
同社が大量生産品からニッチな難削材の少量多品種加工へと経営スタイルの転換を主導したのは2代目の鈴木聡社長である。時期は国内メーカーの海外移転が急速に進み、大量生産品の仕事が激減していた1993年ごろである。鈴木社長は言う。
「富山県内の工業団地に進出していた半導体製造装置メーカーが、部品の県内調達を増やすために加工先を探していたのです。ちょうどその会社の資材部に高校の同級生が勤務しており、サプライヤーとしてやってみないかと声をかけられたのです」
98年には、同じ図面のマグネシウムダイキャスト製品の加工案件が複数の工具商社や機械商社から問い合わせがあった。マグネシウムは発火性のある危険な素材であることは常識だったので、加工対応する会社がほとんどなかったのである。
「最初は断っていたのですが、依頼があまりに続き、そこまで対応する会社がいないのであればやってみようとトライしました。日本マグネシウム協会の安全講習会に参加し、講習で得たノウハウを基にしっかり安全対策を実施し量産化につなげました。その後、県内のアルミサッシメーカーがアルミ押出技術を基にマグネシウムの展伸材の生産を始めたので、当社のマグネシウム機械加工の実績をアピールしたところ、加工を担当させていただくことができました」
ファインテック
鈴木聡社長
ファインテック株式会社
業種 : エネルギー、半導体製造装置、航空機関連等の精密部品製造
設立 : 1965年4月
所在地 : 富山県富山市八尾町薄島73
社員数 : 45名
マグネシウム加工製品がさらに伸びたのは2015年ごろである。大手メーカーからの試作を約1年続けた結果、エネルギー開発産業向けとして量産化が決まったのである。
「メーカーからはその部品が何の用途に使われるのか、販売の見込みが立っているのかどうかなどを知らされていませんでした。20年以上のマグネシウム加工経験でも実績が上がっていなかったので、あまり期待していませんでしたが、結果的に現在の大きな売り上げの柱になりました」
鈴木社長はさらに積極的な策に出る。航空機産業への進出である。神奈川県横浜市に本社を、新潟県内に2工場を構え、航空宇宙関連の精密加工に実績のある山之内製作所からの誘いがきっかけだった。同社の山内慶次郎社長が日本青年会議所の先輩にあたり、「航空機産業に参入しないか」とすすめられたのである。
鈴木社長は最初、2度の誘いを丁重に断った。航空機産業は加工技術や品質管理、認証の取得、品質マネジメントの維持などレベルが格段に高くなる。当時の従業員はわずか8名。対応ができないと判断したのだ。この消極的な姿勢が転換したのは2016年のことである。
「山内社長から、『新規開発案件が量産化するこの時期を逃すと参入は難しくなるので今がチャンスだ』と3度目の誘いを受けました。大学に進学した長男の志郎が会社を継ぐ決心を固めたことで、ハードルの高い航空機産業に参入する決断を下しました。卒業後すぐに長男は山之内製作所に入社し、5年間の研修を通じてノウハウを習得し、加工案件と共に戻ってくる計画がスタートしたのです」
しかしこの計画には大型の工作機械を複数台導入することが大前提。既存の工場では手狭なため大きな中古工場を取得することが必須だった。
「運よく既存の工場と車で10分以内の場所に居抜き物件が見つかりましたが、敷地は約20倍、建物は11倍の物件を購入する必要がありました。売上高9000万円の会社が4億円の資金調達をしなければならなかったのです。税理士と中小企業診断士の協力を得ながら事業計画を作成し、金融機関に融資の依頼をしました」
鈴木社長は取引各行を個別に山之内製作所へ案内する工場視察を開催。視察では山内社長が事業紹介と航空機産業の現状と未来、当社との事業計画を説明し、メインバンクから融資の承諾を得ることに成功した。
「その後さらに2行から融資の承諾を得、3行での協調融資を受けることができました。各行とも航空機産業の特殊性を理解いただき、異例の融資条件で対応していただきました。航空機部品を受注できた場合には、その後数十年単位で安定的に売上高が見込めること、鈴木志郎取締役が同社でノウハウを習得できること、山之内製作所からの受注アイテムが明確であったことなど事業の将来性と両企業の熱意が伝わったことが、融資が成立した決め手になったと思います」
21年、コロナ禍ではあったがマグネシウム部品の増産に対応するため、同社は12台の工作機械を新規購入し、工場内に日本でも珍しいマグネシウム加工部品専用棟の改装に着手、22年5月に稼働を開始した。エネルギー関連分野での売り上げが大きく伸び、現在に至るまで増収増益、過去最高益を更新し続けている。
16年から毎年新卒社員の採用を続けている同社は、人材教育にも力を入れ始めた。キャリア形成の見える化である。
「当社のような中小企業では理系の学生を採用することはなかなか難しいことから、文理関係なく『ものづくりが好き』という側面を重要視し、教育に力を入れる方針をとっています。入社後何年くらいでどんな技術を習得していくかを段階的に定めたスキルマップと、新入社員教育カリキュラムの運用を4月から開始します」
さらなる需要拡大に向け新工場の建設も視野に入っているという同社では、快適に作業ができる製造エリア、社員全員でコミュニケーションをとることが出来るミーティンルームの充実や休憩スペース、多目的スペースなど社員満足度の向上にも着手する予定。「お客さまにとってファイン・パートナーであること、お客さまの期待を超える満足をお届けする、そんなものづくりを続けていきたい」という鈴木社長の挑戦はこれからも続く。
マグネシウム加工専用棟を備える
マスタック税理士法人
富山県富山市奥井町22番6号
税理士 成田聡
専門家を上手に活用し経営をかじ取り
鈴木社長の強みであり尊敬すべき点は、チャレンジ精神が旺盛で、行動力があり、バイタリティーにあふれている点です。そのうえ謙虚なお人柄なので、取引先や従業員から絶大な信頼を寄せられています。ITバブルの崩壊、リーマンショック、コロナショックなど数多くのピンチも、その都度新たな切り口を見つけ、実際に取引につなげてこられました。自ら先頭に立って会社のブランディングにも力を入れておられ、経済産業省から「地域未来牽引企業」にも選定されています。一方パワハラという言葉とは無縁の柔和な笑顔も非常に印象的で、若手社員から直接相談を受けている場面もよく見受けられます。
私は監査担当として巡回監査と業績検討会(経営計画会)等で毎月2回は会社を訪問させていただいています。鈴木社長はもっぱら大局的な経営判断をされており、日々の入力は奥さまが担当されています。われわれの他にも複数の外部専門家を上手に活用しながら経営のかじ取りをされています。